更新:2008年8月6日
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賞味期限と製造年月日

●初出:月刊『潮』1996年7月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

Question加工食品の日付表示が変わるそうですね。
どういうことですか?

Answerこれまで、加工食品の日付表示は、いつ作ったかを示す「製造年月日表示」が一般的でした。

 しかし、国はその見直し作業を進め、いつまで食べられるかを示す「期限表示」に一本化する方針を打ち出しました。

 関係する法律もすでに改正され、一九九七年四月から正式に実施されることが決まっています。現在は、これまでの表示も代用できる二年間の移行期間中。都道府県が条例などの改正を進めている段階です。

 ところが、消費者には「これまでの製造年月日表示も残すべきだ」という声が根強くあるのです。そこで、一部の食品について期限表示と製造年月表示の併記を決める自治体も出てきました。「期限表示」に変えようという原則はそのままですが、一部に異論や修正意見が出ているわけです。

なぜ期限表示か?

Question「製造年月日表示」を「期限表示」に
改めるのは、なぜですか?

Answer現在の制度では、食品衛生法が生鮮食品などの例外を除き原則として「製造・加工年月日表示」を義務づけているほか、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律に基づく日本農林規格も、飲食料品などの「製造年月日表示」や「賞味期間表示」を定めています。

 厚生省や農林水産省は、これを「期限表示」に一本化する理由として、次のようなことを挙げています。

 (1)製造年月日表示だけでは、食品の日持ちがわかりにくい。その背景には、製造・加工・流通・冷蔵冷凍技術の進歩がある。(2)複数の具材を使う加工食品では、厳密な製造年月日が特定できない。(3)製造年月日表示は、消費者の過度の鮮度志向をあおることになる。(4)その鮮度志向に応えるため、メーカーが深夜操業を余儀なくされたり、製造年月日が一日古いだけで返品・廃棄されるなど、弊害も多い。(5)製造年月日表示を採用している先進国は日本だけ。賞味期限表示が一般的な外国製品の参入障壁になっており、諸外国から改善の要望が強い。

 こうした理由から、これまでの「製造年月日表示」は「期限表示」に改めるべきだというのです。

 ただし、期限表示にも二つあります。食肉、生カキ、生めん類、弁当、調理パン、惣菜などは、期限を過ぎたものは飲食を避けるべきという「消費期限」を表示します。いずれも腐ったり、痛みやすかったりする食品です。

 清涼飲料水、ハム・ソーセージ、冷凍食品、即席めん類、牛乳、バターなどは、この日までは品質を保持できるという「品質保持期限」または「賞味期限」を表示します。こちらは、ある程度の保存を前提としている食品です。

 また、缶入りの食品や、ウイスキーや砂糖など三か月以上の長期保存ができる食品は、年月表示だけでよいとされます。メーカーの製造から小売店での販売までマイナス一八度以下が維持されるアイスクリームは、これまで通り賞味期限なしです。

 なお、期限の設定は、原材料の衛生状態や保存状態を知っている製造者自身にゆだねられます。そして、製造年月日の併記は、製造者に課せられた義務ではなく、あくまで任意で表示することになります。

期限表示だけでよいか?

Question期限表示のほうが合理的といわれれば、そうかもしれません。でも主婦としては、やっぱり製造年月日にもこだわりたいのですが……。

Answerお気持ちよくわかります。主婦ではない私も、スーパーでよく買い物をしますが、牛乳でも豆腐でも、陳列棚の奥のほうや下のほうから商品を引っ張り出し、いちばん手前や上に置いてあるものと製造年月日を比べて、一日でも新しいほうを買いますから。

 ゴソゴソやっていると、スーパーの店員が隣の棚に来て、わざとらしく食品を並びそろえたりします。無言のプレッシャーを受けるわけですが、こちらは、一日でも新しい食べ物を買うのに何の文句があるか、選ぶのは消費者の権利だと思っています。同じように、時間をかけて堂々と食品を選んでいる主婦のみなさんが、少なくないと思います。

 しかし、うちに帰ってきて、食品がスーパーの袋から冷蔵庫に移ると、そこから先はわが家の主婦の担当。たまの日曜日、昼食に腕を振るおうかと思って冷蔵庫を開けると、「あれ、これまだ食べてないの」ということになります。

 どうも主婦のみなさんは、食品は冷蔵庫に入れさえすれば痛まないと思っているようですが、それは間違い。冷蔵庫は入れたものがゆっくり腐っていく機械と思うべきなのです。冷蔵庫の中で痛んでいく食品のことを考えれば、製造年月日の一日や二日の前後にこだわるのは、あまり意味がないように感じることもあります。

 問題は、次のような場合です。A社製ハムの製造年月日が六月一日で、A社は包装技術が高いため品質保持期限が七月一〇日(四〇日後)。B社製ハムは、製造年月日が六月十日で、B社の安全性への考え方によって品質保持期限が六月三十日(二〇日後)とします。そして、六月十一日にスーパーに行くとしましょう。

 品質保持期限だけが表示されていれば、誰でも日持ちするA社製ハムを買うでしょう。しかし、製造年月日も同時に表示してあれば、昨日つくられたばかりのB社製ハムを買う人が多いと思います。

 これは当然で、食品の劣化が毎日同じペースで進むならば、六月十一日には、A社製ハムはすでに四分の一痛んでしまったのに、B社製ハムは二十分の一しか痛んでいないからです。

 ところが、六月二十五日に買うならば、A社製ハムの劣化は四〇分の二五、B社製ハムの劣化は二〇分の一五ですから、A社製ハムを選んだほうが賢いことになります。

製造年月日併記も

Questionでは、製造年月日の表示は
あったほうがよいわけですね?

Answer消費者側の理屈ではそうです。A社のハムとB社のハムのどちらを選ぶべきかは、品質保持期限と製造年月日が併記されていなければ判断がつきませんから。もっと足の速い食品ならば、製造日の一日二日の違いがいっそう重要になってきます。

 そこで、東京都、神戸市、名古屋市など一部の自治体では、条例で、一部の食品について品質保持期限と製造年月日の併記を求める方針を打ち出しています。たとえば都では、製造してから五日程度で消費される食パン、一夜漬、豆腐や豆腐加工品、生めん類といった食品に、製造年月日の表示を義務づけます。

 また、期限表示への一本化という国の方針にかかわらず、これまで通り製造年月日との併記を続けるメーカーも少なくありません。期限表示に続けて「製造日から×日後」などと記載するメーカーもあります。

 しかし、製造年月日表示と期限表示の併記を法律で義務づける必要まではないと思います。行政が関与し法的に定める基準は、合理的で最低限必要なものが一つあればよいでしょう。その一つとは、この日を過ぎて食べたら責任は持てないという「期限表示」しかありません。

 もちろん、農水省が製造年月日表示をしないように業界を指導したなどというのは余計なお世話。また、一部の事業者団体が製造年月日表示をしないようメーカーを締め付けたのは独占禁止法違反が疑われる行為。こんなことは許されませんが、ある程度は食品メーカーの自由にまかせてよいのではないでしょうか。

 期限表示だけで製造年月日が表示されていないから不安だという食品ならば、私たちは買わなければよいのです。また、私たちの声を手紙やファックスなどでメーカーに直接伝えればいいと思います。

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