更新:2008年8月6日
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クラスター爆弾

●初出:月刊『潮』2008年8月号「市民講座」●執筆:坂本 衛

クラスターはぶどうの「房」

Questionクラスター爆弾という言葉を聞きました。
どんな爆弾なんですか?

Answerクラスター(cluster)を辞書で引くと、ぶどうなどの「房《ふさ》」、密集した人・動物・物の「集団、群れ」、「星団」、「かたまって起こる一連の出来事、群発」といった意味が載っています。

 ぶどうの粒のそれぞれを小型爆弾とすると、それをいくつもまとめて一房分を一個の大きな爆弾にしたのが、クラスター爆弾です。航空機から投下後に空中で破裂し、内蔵する数個〜数百個の爆弾が散布または放出されて、地上で爆発するタイプが主流ですが、ロケット弾や砲弾タイプのものもあります。

 太平洋戦争の空襲で、米軍の爆撃機B29が爆弾を投下する映像をご覧になったことのある方は、少なくないでしょう。一九四五(昭和二〇)年三月一〇日の東京大空襲のような無差別爆撃は、目印と退路封鎖のため最初に四角形の辺を描いて爆撃し、その後に火が作る枠の中を、爆撃機が編隊を組んで絨毯爆撃(地域一帯を絨毯《じゅうたん》のように覆いつくす爆撃)していきました。

 このとき使ったのは、日本の木造家屋を焼き払うために開発された集束焼夷弾《しゅうそくしょういだん》という爆弾。一リットル入りしょうゆボトルを縦に二本連ねたほどの大きさ(直径八cm×五〇cm)の焼夷弾を三八発たばねたもので、クラスター爆弾の一種です。信管(起爆装置)を下向きに落とすため、反対側の端に細長いリボンがつけてあり、空中でバラバラにする小爆発でこれに火が着いて、火の雨が降るように見えました。

 クラスター爆弾は、広い範囲に分散する目標に対して効果を発揮します。現代戦では、非人道的な無差別爆撃は考えられませんが、侵攻してくる地上部隊を阻止したり無力化するには、きわめて有効であるとされています。

 B29は、高射砲や戦闘機といった対空防御が貧弱だったことを見越して低空から爆撃しました。しかし、地対空ミサイルなどが進歩した現代戦では、空からの攻撃側は、目標を捕捉《ほそく》し、照準を定め、爆弾を投下する時間をできるだけ短くする必要があります。しかも単発の爆弾を多数使って広い範囲を制圧するには、それぞれの破片効果が及ぶ(殺傷効果がある)領域が隣り合うように落とさなければなりません。たとえば一〇〇m×一〇〇mのエリアごとに一発という具合ですが、これはとても難しい。それよりは、一個がバラけて広い範囲を覆うクラスター爆弾のほうが、爆撃機の数を減らせるし、戦場での滞空時間も短くて済むというわけです。

ベトナムやイラク戦争でも

Questionクラスター爆弾は、集束焼夷弾以後も、
使われているのですか?

Answer第二次世界大戦以後、今日までの戦争で、多数が使われています。一九六〇年代後半〜七〇年代前半のベトナム戦争では、米軍が「ボール爆弾」と呼ばれたクラスター爆弾を使いました。これは爆弾一個に野球ボール大の小型爆弾が三〇〇個ほど入っており、その一つひとつが数百の金属片を飛ばして、人を殺傷するもの。カンボジアにも投下されています。

 イスラエルは、オイルショックの引き金となった一九七三年の第四次中東戦争でシリアに対して、七八年レバノン介入や八二年レバノン戦争でレバノンに対して使いました。ソ連は一九七九年以降のアフガニスタン侵攻で、ロケット弾タイプを使用。イギリスも八二年のフォークランド紛争でアルゼンチンの歩兵部隊にクラスター爆弾を投下。八〇年代半ばのチャド内戦では、フランスやリビアが使いました。

 九一年の湾岸戦争では、米・英・フランス軍が数万個のクラスター爆弾を使っています。二〇〇三年のイラク戦争でも、米軍がバグダッド空爆で使いました。最近の事例では二〇〇六年七月、「ヒズボラ」というレバノンのイスラム教シーア派民兵組織によるイスラエル兵士拉致《らち》事件をきっかけに、イスラエル軍がレバノンを空爆。これには旧式の(アメリカが一九六〇年代に開発した)クラスター爆弾が使われました。

 つまり、各国はクラスター爆弾をごく当たり前の兵器として使ってきました。実際に使ってはいないが持っているという国はさらに多く、八〇か国近いと見られます。日本の自衛隊も、航空自衛隊がクラスター爆弾を多数保有するほか、陸上自衛隊が多連装ロケット弾タイプを保有しています。いずれも上陸してくる敵を水際で食い止めるのに使うとしています。

多数の不発弾が問題に

Questionそのクラスター爆弾が注目を集めるようになったのは、
なぜですか?

Answerクラスター爆弾の不発弾が問題とされ、非人道的な兵器だという声が、強まってきたからです。

 内蔵する多数の小型爆弾をばらまくクラスター爆弾は、不発弾の数が多くなります。姿勢を保つためパラシュートやリボンをつけたものは、ゆっくり落ちて衝撃が信管に十分伝わらなかったり、木や建造物に引っかかったりします。クラスター爆弾が内蔵する爆弾の不発率は五%〜三〇%とされ、戦争が終わっても相当数が爆発せず戦場に残るのです。とくに旧式のクラスター爆弾は不発率が高く、二〇〇六年にレバノンで使われたものは、小型爆弾の四〇%が不発のまま残っているという見方もあります。小さくて数が多いため、不発弾の発見や処理が難しいのです。

 ですから、子どもを含めた非戦闘員が戦後、クラスター爆弾に内蔵されていた小型爆弾に触れて死傷するという事故が多数報告されています。見慣れないものが落ちていれば、子どもたちは何だろうと興味を示して手に取るでしょう。こうして被害にあう子どもが少なくないため、クラスター爆弾を「チャイルド・キラー」と呼ぶ人もあります。

 そこで二〇〇六年二月、まずベルギーが世界に先駆けてクラスター爆弾を禁止。二〇〇七年二月には、ノルウェーが提唱したクラスター爆弾禁止に関する国際会議が、同国の首都オスロで開かれました。会議では参加四九か国のうち四六か国(日本は棄権した三か国の一つ)が、二〇〇八年内にクラスター爆弾の使用・製造・移動・備蓄の禁止を盛り込んだ条約の成立を目指すというオスロ宣言を採択しました。これに基づいて二〇〇八年五月、アイルランドの首都ダブリンで国際会議が開かれ、一部例外を除きクラスター爆弾を全面的に禁止する歴史的な条約案が、参加約一一〇か国の全会一致で採択されたのです。

日本も禁止条約に同意

Questionクラスター爆弾禁止条約の内容は
どうなっていますか?

Answer対象とならないクラスター弾として、内蔵爆弾が一〇個未満、各内蔵爆弾が四kg以上、単一目標を察知し攻撃することができる設計、電気式の自己破壊装置を装備、電気式の自己不活性機能を装備という五項目を掲げ、以上にあてはまらないクラスター爆弾は全面的に禁止するという内容です。これを全世界に適用すれば、対戦車用などを除き、現在のクラスター爆弾のほとんどが使用禁止になるといわれています。

 日本では、防衛省・自衛隊を中心に、クラスター爆弾の使用禁止に慎重な声が強かったのですが、日本政府は条約への同意を決断しました。これは、日本が平和国家として生きていくという力強い宣言の一つとして、評価に値すると思います。

 今後は、条約に署名し、条約の発効後八年以内に、禁止対象となるクラスター爆弾の廃棄と、自己破壊装置のついた最新型への切り換えを進めていくことになります。数百億円以上のコストがかかりそうですが、これはやむをえないでしょう。

 ダブリンの国際会議には、アメリカ、ロシア、イスラエル、中国などクラスター爆弾の主要配備国が参加せず、日本周辺の韓国、台湾も参加していません。時間をかけてこれらの国を説得していくことが、国際社会の課題として残されています。

※各国の使用例は、ヒューマン・ライツ・ウオッチ「Timeline of Cluster Munition Use(May 2008)」による。

爆弾の分類

大分類 小分類 解説
核爆弾
(核兵器)
原子爆弾ウラン235・プルトニウム239などの核分裂反応によるエネルギーを利用した爆弾。1945年8月、濃縮ウラン型が広島に、プルトニウム型が長崎に投下された。原爆。
水素爆弾水素の同位体の核融合反応によるエネルギーを利用した爆弾。起爆に原子爆弾を使い、重水素・三重水素・リチウムなどの融合反応を起させる。水爆。
中性子爆弾破壊力よりも人間への殺傷力を重視し、中性子線を放射する割合を高めた爆弾。中性子(ニュートロン)は陽子とともに原子核を構成する素粒子で、物質中の透過性が強い。
通常爆弾
(非核爆弾)
普通爆弾爆薬の爆発エネルギーを利用した爆弾。爆薬は瞬間的に高温ガスとなって膨張し、衝撃・圧力を発生して建物などを破壊(爆風効果)。同時に弾の破片が高速度で飛散し人間を殺傷(破片効果)。
クラスター
爆弾
数個〜数百個の爆弾をまとめて1個にした爆弾。航空機から投下後、各爆弾が空中に放出・散布されるもの、ロケット弾や砲弾のものがあり、主として広範囲に分散する地上部隊に対して使う。
焼夷爆弾ガソリンなどの燃料を散布し、火災を起こさせる爆弾。燃料をエアロゾル(エーロゾル、エアゾールとも。噴霧)化し燃焼させるタイプは、空気中の酸素を広範囲に奪い、人間その他を窒息させる。
特殊用途
爆弾
照明爆弾(照明弾)、対潜水艦用爆弾、化学爆弾(化学兵器。毒ガスなどを散布)、生物爆弾(生物兵器。ウイルスや細菌などを散布)、宣伝ビラの散布用の爆弾など、特殊な用途に使う爆弾。
誘導爆弾投下後、CCDカメラによる画像、赤外線、レーザー、GPS(全地球測位システム)などによって誘導し、命中精度を高めた爆弾。スマート爆弾、精密誘導兵器ともいう。

※世界大百科事典(平凡社)の「爆弾」項目その他を参考に、坂本が作成。

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